子どもと大人が同じ目線で楽しめるアナログゲームを。「イロトカタチ」ゲームデザイナー澁谷美幸インタビュー
いろいろな⾊のカードを使って「めだまやき」「テレビゲーム」など、お題に出されたものをつくり、周りの⼈が当てて遊ぶ新感覚のカードゲーム・イロトカタチ。
イロトカタチの考案者であるバンダイナムコスタジオのゲームデザイナー・澁⾕美幸(しぶや・みゆき)さんに、お聞きしたイロトカタチの誕⽣秘話や、ゲームに込めた思いをご紹介します。

イロトカタチ考案者のゲームデザイナー・澁谷美幸(しぶや・みゆき)さん
きっかけは社内の有志チームから。ドット絵にヒントを得て発案
「誰でも、電源がない場所でも遊べるゲームをつくろう!」。
2018年8⽉、バンダイナムコグループ内の有志が集まり、業務外のボードゲーム制作チームが⽴ち上がりました。きっかけは「遊びの原点に返ろう」というグループ社員の呼びかけだったそう。
考案者の澁⾕さんは、過去にクラシックゲーム(1980年代につくられた、絵がドット絵で描かれているゲーム。ファミコンが代表例)の移植に携わっていたゲームデザイナー。その経験からイロトカタチを考案するヒントを得たそうで、
「ドット絵って、8×8とか16×16のマスに⾊が付いているだけですが、何を表しているか分かるじゃないですか。抽象的な⾊の集合なのに何を表しているか分かる、ドット絵のようなゲームをつくりたかった」と振り返ります。
ドット絵の例 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
大人も子どもも一緒に楽しめるゲームに
また澁⾕さんがこだわったのが「⼦どもと⼤⼈が⼀緒に楽しめる」ということ。⼦どもが楽しめるのはもちろん、⼤⼈も退屈したり⼿加減したりせずに遊べることも⼤切にしています。
「イロトカタチで遊んでみると、⼤⼈より⼦どもの⽅が強いことがよくあります。⼤⼈はいろいろな情報があるせいか迷ってしまうようで。使いたい⾊が手元にない時にも柔軟な発想がしにくい傾向があります。でも⼦どもは、何でもパッとつくりますね。迷いがないんです。」
幼稚園でのテストプレイの様子。答えは「さくらんぼ!」
澁⾕さん自身も3歳のお⼦さんと⼀緒にイロトカタチで遊ぶこともあるそう。「まだ3歳なので、普通のルールで遊ぶのは難しいですが、彼なりに楽しんでいます。私がニンジンをつくって、『これ、なーんだ?』と聞いて当ててもらったり、今度は彼が真似してニンジンをつくったり。息子と遊ぶ時は色カードは好きな色を選んで遊んでいます。
基本ルールはありますが、参加する⼈に合わせてルールを簡単にしたり、難しくしたり、みんなが楽しめるようにアレンジして遊んでくれたらいいなと思います」
試行錯誤したルール設定。簡単すぎず、難しすぎないゲームを目指して
お題は⼦ども向けの図鑑などを参考に、ひとつひとつ選定。誰でも知っていて、⾊が分かりやすいものを選んでいきました。簡単そうなお題でも、実際につくってみると⾊のカードが多く必要なこともあり、少ない枚数でつくれることも重視。お題は3つの難易度に分け、遊ぶ⼈に合わせて選べるようにしました。
「動かしてOK」というところもおもしろい!
カードを動かすことで、つくる側も、当てる側もわいわい盛り上がります。
イロトカタチは「おしゃべり推奨」のゲームなので、カードを持ち上げたり、つくった形をどんどん変えたりしながら、「ここがこんなふうに動くよ」「こういう形もあるよ」「惜しい!」など、お題の核⼼に迫ることでなければ、ヒントを与えたり、質問するのもOK!
こうして自然とコミュニケーションが生まれるのも魅力のひとつなんです。
澁⾕さんは「たくさんおしゃべりをして、みんながイロトカタチを通して仲良くなれたらうれしいです」と話しています。
⼀⽅で、ルールが複雑にならないようにすることも重要でした。決まりが増えることでルールが難しくなれば「誰でも楽しめる」というイロトカタチの根幹が崩れてしまいます。ルールの検討作業は「どこまでいっても終わりが⾒えない作業だった」と澁⾕さんは話します。
「シンプルでかわいい」デザインへのこだわり
イロトカタチのデザインは、バンダイナムコスタジオのビジュアルチームが担当しました。年齢や性別関係なく、幅広い層に届くように「かわいくて、シンプルなデザインにしたかった」と澁⾕さんは話します。「⼦どもっぽくなりすぎても駄⽬でした。⼤⼈の⼥性も『かわいい』と思えるデザインにしたかったんです」
完成したイロトカタチのパッケージのメインカラーは⽩。カラフルな「たんぽぽ」や「エビフライ」などの「お題」が規則正しく並んでいます。
イロトカタチのデザインは「ハキリアリが⾊のカードを運んで、みんなで当て合いっこをしている様⼦」をモチーフにしており、このアリはあちこちに登場します。
プレイ時に敷くプレイシートは草むらをイメージした⻩緑⾊。開発当初プレイシートはありませんでしたが、お題をつくる時に「どちらが上か下か分からない」という声を受けて⽤意しました。もちろんここにも、⼩さなアリが登場。澁⾕さんの⾔葉どおり「シンプルでかわいい」デザインになっています。
初めての販売!ゲームマーケットで得た確かな手ごたえと、大きな喜び
ボードゲームの制作チームが⽴ち上がってから1年余り。2019年11⽉に、国内最⼤級のアナログゲームイベント「ゲームマーケット」にイロトカタチを出展し、テスト販売を実施しました。
初めての販売に不安もありましたが、いざイベントが始まると⼦どもから⼤⼈までたくさんの人が!そして「売れない時は10個も売れない」ゲームマーケットで、イロトカタチは300個以上の完売。
幅広い世代の⼈が楽しそうにイロトカタチで遊んでいる様⼦を⾒て、澁⾕さんは⼤きな喜びを感じたといいます。
「できあがった商品が⼈の⼿に届いて、楽しんでいる姿を⾒るのが、ゲームデザイナーとしての一番のやりがいです。今回イロトカタチの制作を通して、アナログゲームでは得られる喜びが特に⼤きいと感じました。
というのも、デジタルゲームをつくっている時は、⾃分の⽬の前で遊んでいる⼈の姿を⾒る機会があまりありませんでした。イロトカタチでは、多くの⽅に『おもしろい』『楽しい』と直接⾔ってもらうことができて本当に嬉しかった。これからも、1⼈でも多くのユーザーの⽅にイロトカタチを知ってもらい、魅⼒に共感してもらえたら嬉しく思います」